

いまここ遺品整理の白坂です
私は普段、遺品整理の会社を経営しています。
人生の最期を迎えられた方のご遺品や、そのご家族の想いに寄り添うのが私たちの大きな役割です。
しかし、私たちの仕事はそれだけではありません。
そのほかに、これからをより良く生きるための「生前整理」や、高齢者の方を中心とした定期的な「片付けサポート」サービスも行っています。
月に一度、私はあるお宅のインターホンを押します。
そこに暮らしているのは、89歳になる一人暮らしの女性。
定期片付けサポートのプロとして、私は彼女の家を長年訪問しています。
「ご自身ではできないけれど、ヘルパーさんの業務範囲では対応できないこと」――それが、私の役割です。
重い家具の移動、高いところの整理、季節に合わせたクローゼットの入れ替え。日常生活のちょっとした「困りごと」を解消するために伺うのですが、実は私にとって、この時間は単なる仕事以上の意味を持っています。
片付けの手を動かしながら、お茶をいただく合間に、彼女がぽつりぽつりと語ってくれるこれまでの人生、日々の気づき、そして重ねてきた年齢の重み。
それは、数多くの「人生の仕舞い方」を見てきた私にとっても、教科書には絶対に載っていない、人生の大先輩からの非常に貴重なメッセージの宝庫なのです。
先日の訪問時、彼女が穏やかな笑顔でこう言いました。
「ねえ、あなたがいつか年をとったときのために、私が気づいた『高齢者の生き方で大切な3つのこと』を教えてあげるわ」
胸に深く刺さったその3つの言葉を、今回は皆さんにシェアしたいと思います。
1. 「耐えること」―― 変わりゆく現実を受け入れる強さ
彼女が最初に挙げたのは、少し意外にも思える「耐えること」 という言葉でした。
「耐える」と聞くと、苦しいことをじっと我慢する、辛気臭いイメージを持つかもしれません。しかし、彼女の言う「耐える」は、もっとしなやかで強いものでした。
「年をとるということはね、昨日までできていたことが、今日突然できなくなることの連続なのよ。身体が思うように動かなくなったり、大切な人たちとのお別れが増えたりね。それに抗おうとしても、虚しくなるだけ。だから、まずはその現実を『耐える(受け入れる)』ことが必要なの」
89歳の一人暮らし。寂しさや不自由さがないわけがありません。
しかし彼女は、衰えや孤独を嘆くのではなく、「そういうものだ」と一度静かに受け止めます。
できない自分を責めず、プロの手を借りることを恥じない。
私が訪問して片付けをすることも、彼女にとっては「上手に耐え、現実を受け入れている証拠」なのだと気づかされました。現実から逃げずに耐える強さがあるからこそ、次の一歩が進められるのです。
2. 「笑うこと」―― どんな小さなことにもユーモアを
2つ目は、彼女のチャーミングな人柄そのものを表すような「笑うこと」 です。
彼女の家は、いつもどこか明るい空気が流れています。それは、彼女が意識して「笑い」を作っているからでした。
「一人で家にいるとね、放っておけば顔の筋肉が下がって、どんどん難しい顔になっちゃうの。だから私はね、テレビを見てクスッと笑ったり、鏡の前でわざとニッコリしてみたりするのよ。
それにね、あなたみたいに誰かが来てくれたときは、できるだけ楽しい話をして一緒に笑いたいの」
彼女は、自分の体調の悪さや、ちょっとした失敗さえもユーモアを交えて話してくれます。
「この前ね、メガネを探して1時間もお家を探検しちゃった。結局、頭の上に乗ってたんだけどね!」と笑う彼女の姿に、私もつられて大笑いしてしまいます。
高齢になると、どうしてもふさぎ込みがちになる瞬間があります。
しかし、「笑う」ことは、心に酸素を送り込むようなもの。 どんな状況でも、クスッと笑える心の余白を持ち続けることが、生きるエネルギーになるのだと教えてもらいました。
3. 「始めること」―― 年齢を理由に諦めないワクワク感
そして最後、89歳の口から出てきたのが「始めること」 という、実に前向きな言葉でした。
多くの人は、年齢を重ねるごとに「もう遅いから」「今さらやっても」と、新しいことを諦めてしまいがちです。しかし、彼女の辞書にその諦めはありません。
「もう89歳だからって、じっと座って人生の終わりを待つなんてつまらないじゃない? どんなに小さなことでもいいの。新しい本を読み始める、今まで作ったことのない料理のレシピを試してみる、部屋の模様替えをして新しい景色を作ってみる。何かを『始める』ときって、いくつになっても胸がワクワクするのよ」
「始めること」に、年齢の制限などありません。
今日という日は、これからの人生の中で一番若い日。その心意気が、彼女の若々しさの源泉なのだと深く納得しました。
訪問を終えて:私たちがこれからの人生で大切にしたいこと
• 耐えること(現実を受け入れるしなやかさ)
• 笑うこと(心を明るく照らすユーモア)
• 始めること(未来へ向かう好奇心)
数々の遺品整理や生前整理の現場を通じて、私は多様な生き方・仕舞い方を拝見してきました。
その中でも、89歳の彼女が教えてくれたこの3つは、高齢者の方々だけでなく、現代を生きる私たち全員に共通する「豊かに生きるためのヒント」だと確信しています。
片付けの仕事を終えて彼女の家を後にするとき、私の心はいつも行く前より軽くなっています。お部屋が綺麗になるだけでなく、私自身の心のゴタゴタまで整理してもらったような、そんな温かい気持ちになるのです。
「また来月、楽しみに待っているわね」
そう言って手を振ってくれた彼女の笑顔を思い出しながら、私も日々の生活とビジネスの中で、この3つの魔法の言葉を大切に育んでいきたいと思っています。
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